「国際オートアフターマーケットEXPO2017」の取材を受けて
激しく変化する業界の中で できる"次の一手"を考えてみよう
自動車の高度化や人材不足など、自動車修理・整備業界は今後激しい変化が予想されます。これらの問題や課題に対応するため、国も研究を進め、対応策を検討し始めたり、実際に支援制度を整えたりしています。国の方針を参考にして、いち早く次の一手を打つことは一つの方策と言えるでしょう。どのような具体的な対応が考えられるか、国際オートアフターマーケットEXPO2017で実施された国の行政機関担当者によるセミナーの内容をもとに、まとめてみました。
次世代自動車の新車販売が拡大電子部品比率は10年で2倍に
現在、自動車の高度化は急速に進展しています。ハイブリッド自動車(HV)、プラグイン・ハイブリッド自動車(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)など次世代自動車は、2016年の新車販売の34.85%、144.5万台を占め、政府は、2030年には50~70%に引き上げることを目標にしています。また、自動車の高度化に伴って、電子制御や安全運転システムの拡充、ネットワークとの接続が進み、自動車の電子系部品、ソフトウェアの割合は急速に高まっています。機械部品を100とした場合の電子部品やソフトウェアの割合(電子部品比率)は10年で約2倍に増加(図1)。
自動車1車種当たりのソフトウェアのソースコード行数は、2000年の100万行から2016年は1億行以上に増え、ソフトウェアの複雑化も進んでいます(図2)。
自動運転車の開発競争が激化2025年に完全自動運転車が登場?
さらに自動車の高度化に拍車をかけるのが、自動運転車の開発競争が自動車メーカーだけでなくIT企業も参入し、世界的に激化していることです。各社は無人自動走行による移動サービスを2020年頃に実現することを目指し、開発を加速させています。政府も「官民ITS構想・ロードマップ2016」に基づき、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックまでに、無人自動走行による移動サービスや高速道路での自動走行が可能となるよう、制度やインフラ面の環境整備を行うことを表明。2025年を目途にドライバーが運転に関与しない「完全自動運転車」の普及開始を努力目標に掲げています。将来的に、HVやPHV、EV、FCVに加えて自動運転車の普及も視野に入る中、自動車の電子化比率やソフトウェアの複雑化は、ますます高まっていくと予想されます。
スキャンツールは8割の工場が導入エーミング作業が可能な機種も登場
そうした中、国土交通省は自動車の整備や修理を担う工場も、技術の高度化が必須であると、提言しています。その方策の一つが、国交省が後押しする「スキャンツール」の導入です。同省の調査によると、全国の整備工場のスキャンツール推計保有率は約8割に及び、普及が進んでいる現状がうかがえます(図3)。
最近では、自動車の各システムの故障診断だけでなく、センサーなどの調整が可能なスキャンツールも登場。それらの最先端機を使えば、センサー周りの車体修復やガラス交換時に、センサー機能の調整や点検のための「エーミング作業(光軸調整)」ができるようになり、カメラや赤外線レーザー、ミリ波レーダーなど各種センサーを備えた自動車の修理や整備が可能になります。
スキャンツールの性能向上に期待国交省は各種研修の拡充を検討
国交省は自動車メーカーに対し、スキャンツールの開発に必要なデータを開示するよう求めており、今後は汎用型のスキャンツールの性能の向上が期待できます。さらに同省では、スキャンツール活用研修を継続的に行う「フォローアップ研修」、活用研修より高度な故障診断・整備技術を修得する「ステップアップ研修」、自動車の新機構や新装置の構造・機能制御方法を修得する「新技術研修」など、新たな人材育成事業も検討しています。これらの動きを視野に今後の戦略を練ることは、次世代自動車への対応に向けた一つの方向性と言えるでしょう。
自動車の修理工場、整備工場の人材確保・育成について
一方、自動車の修理工場や整備工場では、人材確保が困難な時代になっています。整備士を例に取れば、平均年齢が2014年時点で43.8歳と上昇傾向にあるのと同時に、約5割の整備工場で整備士が不足していると答えており、若者の採用が喫緊の課題です。国交省では全国各地の運輸支局長が高等学校を訪問して自動車整備をPRするなど対策を実施。また、高校側からは「整備士の魅力、社会的重要性のアピールが必要」「ハローワークへの求人、継続した求人を望む」「職場体験、生徒への説明、出前講座、卒業生による講演を行ってほしい」などの意見が寄せられています(図4)。これらの現場の意見を参考に、若者向けの求人をテコ入れしてみることも、将来に向けた次の一手と言えるでしょう。
外国人を日本で一定期間(最長3年)受け入れて、実地で技能を移転する制度である「技能実習制度」に関して、2016年から「自動車整備」が対象職種に新たに加えられたこともトピックスです。監理団体(事業協同組合、商工会など)を経由して外国人の技能実習を受け入れる環境も整い、選択肢の一つになっています。 国交省のスキャンツール導入支援や研修、高校訪問、外国人技能実習制度は、同省自動車整備局が問い合わせ先です。詳細や最新情報を聞きつつ、将来の工場づくりを検討するきっかけにできればと思います。
今回のレポートは、「国際オートアフターマーケットEXPO2017」で実施されたセミナー「自動車産業の現状と今後の方向性について」(経済産業省 製造産業局 自動車部品・ソフトウェア産業室 室長補佐 太田保光氏)と「自動車整備行政の現状と今後の取組み」(国土交通省 自動車局 整備課 点検整備推進対策官 堀江暢俊氏)の内容を参考にまとめました。